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2026. 07. 02
生産者来日

「シャトー・ムートン・ロスチャイルド 2023」から見る、気候変動時代におけるボルドーのあり方

 メドックの格付け第一級「シャトー・ムートン・ロスチャイルド」。格付けの歴史の中で唯一、第一級に昇格した偉大なワインであるとともに、毎年異なるアーティストが手がけるアートラベルでも知られています。

 そんな「シャトー・ムートン・ロスチャイルド」から、オーナーファミリーであり芸術・文化活動およびアーティストとの関係を統括する、ジュリアン・ド・ボーマルシェ・ド・ロスチャイルド氏が来日しました。

 最新ヴィンテージである2023年は、ボルドーにとってどのようなヴィンテージだったのでしょうか。「シャトー・ムートン・ロスチャイルド 2023」を通して、その特徴を読み解きます。

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オーナーファミリーのジュリアン・ド・ボーマルシェ・ド・ロスチャイルド氏

2023年ボルドーの出来はいかに!?

 グレートヴィンテージと評された2022年と比較すると、2023年は極端な天候となったことで、収穫時期や醸造方法について、シャトーごとに異なる判断が求められた年でした。その結果、各シャトーの哲学やテロワールの個性が、ワインへ色濃く表れたヴィンテージと言われています。

 シャトー・ムートン・ロスチャイルドによると、2023年のボルドーは記録的な暑さに見舞われた年だったそうです。特に6月は、シャトーが1962年から継続している気象観測史上、最も高い気温を記録。しかし、シーズンを通して猛暑が続いたわけではなく、極端な高温は8月下旬と9月初旬の2度に集中していたと言います。

 冬には十分な降雨があり、2022年の乾燥によって不足していた土壌水分は回復。春も穏やかな気候のもとで生育が進み、収穫期には晴天と嵐が交互に訪れる難しい条件の中、ブドウは成熟を迎えました。

 その結果生まれたのは、凝縮感とフレッシュさを兼ね備えた、緊張感のあるスタイル。近年の豊満なボルドーとは一線を画す、クラシックな骨格を持ったヴィンテージとして評価されています。

史上2番目に高いカベルネ・ソーヴィニヨン比率

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シャトー・ムートン・ロスチャイルド 2023年

 最新の「シャトー・ムートン・ロスチャイルド 2023」は、カベルネ・ソーヴィニヨン93%、メルロ7%というブレンドとなりました。これは94%だった2010年ヴィンテージに次ぐ、史上2番目に高いカベルネ・ソーヴィニヨン比率です。

 ジュリアン氏は、2023年を「カベルネ・ソーヴィニヨンがより輝いた年」と表現。カベルネ・ソーヴィニヨン由来のきめ細かなタンニンをいかに表現するかを重視したと語りました。

 シャトーでは、近年の温暖化傾向の中で、メルロよりもカベルネ・ソーヴィニヨンの方が高温環境に適応しやすい品種だと考えているそうです。実際に2023年もカベルネ・ソーヴィニヨンの出来が非常に優れていたことから、その品質を反映する形で比率が高まりました。

 また、バロン・フィリップ・ド・ロスチャイルド社は、ボルドーだけでなく、チリやナパ・ヴァレーなど、温暖で乾燥した産地でも高い評価を得るワインを生み出してきました。そうした成功経験を背景に、高温環境下でも優れたカベルネ・ソーヴィニヨンを生み出せることに自信を持っているといいます。

 実際にワインからは、完熟した黒系果実やブラックチョコレートを思わせるアロマが広がります。凝縮感がありながらも、上品さやフレッシュさを備え、クラシカルかつスタイリッシュ。それでいて、しっかりとした力強さも感じさせるスタイルです。

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 また、アートラベルについても、シャトーの芸術・文化活動を担当するジュリアン氏が熱く語ります。

 1924年、当時まだ珍しかった「シャトー元詰め」を広くアピールするため、ポスターデザイナーへラベル制作を依頼したことがその始まりです。

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ジャン・カルリュ氏が手掛けた1924年のラベルデザイン

 一時中断されたものの、1945年、平和の訪れを記念してアートラベルが復活。その後はシャガール、ミロ、日本人のアーティストである塩田千春氏など、時代を代表するアーティストが手掛けてきました。

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 最新2023年のアートラベルのテーマは、「自然と人の調和」だと言います。ポルトガル人アーティスト、ジョアナ・ヴァスコンセロス氏が手掛けた作品タイトルは、「パライソ(Paraiso)」。ポルトガル語で「楽園」を意味します。

 ジュリアン氏は、ヴァスコンセロス氏の作品に以前から注目していたそうです。特に印象に残っているのが、2012年にヴェルサイユ宮殿で開催された大規模個展や、近年のリリア宮殿での展示。歴史的な空間や美術品と現代アートを対話させる、その大胆な表現に強く惹かれてきたと言います。

 巨大なインスタレーション作品で知られるヴァスコンセロス氏ですが、刺繍やカギ針編みなど日常的な素材や高度なクラフト技術を用いながら、壮大で独創的な作品を生み出している点に、ムートンとの共通点を感じたそうです。

 ジュリアン氏は、「私を魅了してやまないのは、アーティスト(芸術家)とアルチザン(職人)、ふたつの世界の繋がり」とコメント。高い技術を持つ職人たちの手仕事と、唯一無二の芸術作品を生み出す創造性。その両方が共存している点に強く惹かれ、「シャトー・ムートン・ロスチャイルドの精神にも通じる」と考えたことが、今回アートラベルのアーティストへ選出した理由のひとつだと語っています。

 ジュリアン氏が特に熱を込めて語っていたのが、この作品に込められた意味でした。

 「中央に描かれたブドウの房は、シャトー・ムートン・ロスチャイルドのテロワールという"楽園"の中で育まれる存在。その周囲には、土、水、太陽の光、夜の涼しさといった、ワインに欠かせない自然の要素が描かれています」

 さらに、鋭い三角形については、「自然へ巧みに介入する"人の手"を表している」と説明。2023年のアートラベルは、自然と人がともにワインを生み出していく姿を表現した作品なのだと語りました。

 気候変動が進む現代において、このアートラベルは、自然と向き合いながらワインを生み出すシャトーの姿勢を映しているように感じられます。極端な気候の中でも、自然を読み取り、人の手で均衡を導き出す。「シャトー・ムートン・ロスチャイルド 2023」からは、気候変動が進む時代におけるボルドーワインのひとつの方向性が垣間見えました。

シャトー・ムートン・ロスチャイルド:https://www.enoteca.co.jp/producer/detail/105