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モンタルチーノの「純粋な表現」に迫る、注目の3生産者が語るテロワールと新時代の造り
500万年ほど前は海の底にあり、海底隆起によって形成されたイタリア・トスカーナ州シエナ県に位置するモンタルチーノ。標高500mほどの丘の頂上からは、360°にわたって美しい田園風景が広がっています。海洋由来の土壌、山脈がもたらす複雑な地質、そして面積の6割を占める豊かな森林。この生物多様性の宝庫から、素晴らしいワインが生み出されています。
この度、初来日となる「カステッロ・トリチェルキ」をはじめ、「レ・ラニャイエ」、「イル・マッロネート」の3生産者が一堂に会しました。彼らが共通して目指しているのは「モンタルチーノのサンジョヴェーゼの純粋な表現」です。理想を追求する三者三様のワイン造りについて語ってくれました。
左から、初来日した「カステッロ・トリチェルキ」当主トンマーゾ・スクアルチャ氏、「イル・マッロネート」オーナーのアレッサンドロ・モーリ氏と息子のヤコポ・モーリ氏、「レ・ラニャイエ」オーナーのリッカルド・カンピノーティ氏
■ 古城から新たな歴史を刻む新星「カステッロ・トリチェルキ」
1441年に築かれた中世の古城を拠点とする「カステッロ・トリチェルキ」は、モンタルチーノ最北部という冷涼な立地を最大の武器にする生産者です。
家系としては24代続く重厚な歴史を持ちますが、ワイナリーとして本格的にワイン造りを始めたのは2013年のこと。今回初来日したトンマーゾ・スクアルチャ氏は、金融業を担っていた一族の歴史を背負いつつも、ワイン造りにおいてはとても軽やかで現代的な視点を持っています。1984年に彼の叔父がブドウ栽培を始めてから、ブドウは販売するのみでしたが、2013年にトンマーゾ氏が体制を整えたことで、ワイナリーとしての本格的な歩みが始まりました。
「カステッロ・トリチェルキ」の当主 トンマーゾ・スクアルチャ氏
非介入なワイン造りで追求する"食事に寄り添うスタイル"
彼の哲学は、極力人の手を介さない「非介入」の精神を貫き、ありのままのブドウをワインにすることです。
「透明感があり、今飲んで美味しいと感じられる味わい。食卓で料理の邪魔をせず、むしろ引き立てるような、酸がしっかりしていて、タンニンがシルキーなスタイルを追求している」と語ります。
そのスタイルを支えるのが、北部の冷涼な気候と西向き斜面の豊かな日照です。長い日照によって十分な熟度を確保しながらも、冷涼な気候の恩恵により、生き生きとしたフレッシュさをしっかりと保っています。熟成はワイナリーとなっている城の地下セラーで行われます。1mを超す分厚い石壁が天然の断熱材となり、外気の影響を受けない理想的な環境が保たれているのです。ここでスラヴォニアンオークの大樽を用いてゆっくりと熟成。さらに、ワインが真に「準備できた」と判断するまで城内で瓶内熟成を重ねることで、最高の状態でリリースしています。
「カステッロ・トリチェルキ」が手掛けるワイン3種。左から、『ロッソ・ディ・モンタルチーノ 2024年』、『ブルネッロ・ディ・モンタルチーノ 2021年』、『ブルネッロ・ディ・モンタルチーノ A.D. 1441 2021年』
彼らが造るワインのなかで、最もフレッシュで親しみやすい味わいなのが『ロッソ・ディ・モンタルチーノ』。ジューシーなタンニンを抽出するために、15〜20%の比率で全房発酵を取り入れていることが特徴です。
フラッグシップキュヴェである『ブルネッロ・ディ・モンタルチーノ』は、3つの異なる畑から収穫されたブドウを区画ごとに6つの発酵槽で醸造・ブレンドし、スラヴォニアンオーク大樽で2年、さらに瓶内で1~1年半の熟成を経て、ようやく約24,000本がリリースされます。
そして、なかでも注目すべきが、際立って石灰石が多い単一区画から優良年にのみ生まれるトップキュヴェ『ブルネッロ・ディ・モンタルチーノ A.D. 1441』です。通常のブルネッロに比べて醸しと熟成の期間を長く取り、大樽で2年半という長期熟成を実施。さらに長い瓶内熟成を経てリリースされます。区画特有の塩味とミネラル感、そして緻密なタンニンが特徴的な味わいです。
このワインを造り出した背景について、トンマーゾ氏は次のように語りました。
「畑の研究を進める中で、この区画のブドウは冷涼な年でも暖かい年でも、一貫した特徴が感じられることに気づきました。そのため、この単一畑でワインを造ることを決めました。年間の生産量は約2,700本とわずかですが、その分、この土地ならではの優れた味わいをしっかりと表現できていると思います。」
■ 標高差400mが生み出すテロワールの多様性「レ・ラニャイエ」
2003年設立の「レ・ラニャイエ」は、モンタルチーノにおける単一畑の先駆者です。最高標高621mから南部の約200m地点まで、性質の異なる4エリアに畑を所有しています。
オーナーのリッカルド・カンピノーティ氏が目指すのは、「サンジョヴェーゼのピュアな味わいを全面に出した、熟成のポテンシャルはあるが今飲んで美味しく優しい味わい」です。そのために2005年からオーガニック栽培を実践。すべて手摘みで収穫し、野生酵母による発酵と、極力負荷をかけないプレスによってブドウ本来の旨味を引き出しています。
「レ・ラニャイエ」 オーナー リッカルド・カンピノーティ氏
個性豊かな、5つのシングルヴィンヤード
設立当初は、ロッソ・ディ・モンタルチーノとブレンドのブルネッロ・ディ・モンタルチーノのみを造っていました。しかし、「異なるテロワールの個性を表現したい」との想いから、2007年より当時この地では珍しかった単一畑の概念を取り入れ、現在は最大5つの単一畑のワインを生み出しています。
醸造におけるこだわりは、テロワールの違いを純粋に感じてもらうため、醸造方法や熟成期間をすべてのワインで「完全に統一」している点にあります。これにより、味わいの違いは土地の個性のみから生まれています。また、2015年に標高制限(標高600m以上はブルネッロ・ディ・モンタルチーノDOCGを名乗れない生産規格規定)が撤廃されたことは、彼らにとって歴史的な転換点となりました。かつてはブルネッロ・ディ・モンタルチーノと名乗れなかった最高標高約600mの区画から、今やエレガントの極みというべきワインが生み出されています。
歴史的ヴィンテージとなる2021年
「2021年はモンタルチーノにとって、完璧な気候条件に恵まれた歴史的なヴィンテージ」とリッカルド氏は語ります。春には適度な雨が降り、夏も暑すぎず、そして収穫前の9月に昼夜の寒暖差がしっかりとありました。これにより、サンジョヴェーゼ特有の複雑なアロマと、力強さときめの細やかさを兼ね備えるタンニンが完璧に調和しています。
「レ・ラニャイエ」が手掛けるワイン。左から、『ロッソ・ディ・モンタルチーノ 2022年』、『ブルネッロ・ディ・モンタルチーノ 2021年』、『ブルネッロ・ディ・モンタルチーノ パソ・デル・ルメ・スペント 2021年』
■ "エレガンス"と"ベルベットのような質感"を誇る「イル・マッロネート」
1974年、現オーナーのアレッサンドロ氏の父がモンタルチーノ北部の非常に急斜面の土地を購入したことから始まった「イル・マッロネート」。"エレガンス"と"ベルベットのような質感"で世界を魅了するそのワインの根底には、恩師であり天才エノロゴと称されるマリオ・コルテヴェジオ氏から学んだ「あらゆるものへの敬意」という哲学があります。
「サンジョヴェーゼというブドウを尊重すればするほど、その土地らしいワインになる。トスカーナのワインとして造り出す以上、ブルゴーニュやカリフォルニアの真似をするのではなく、純粋なトスカーナのワインを届ける義務がある」と、アレッサンドロ氏は語ります。
「イル・マッロネート」オーナー アレッサンドロ・モーリ氏
「伝統的なミニマルなワイン造り」
そのワイン造りは、極力人の手を介さない「伝統的なミニマリズム」を貫いています。厳格な剪定後は自然に任せ、畑を耕さず草を生い茂らせることで地中の生態系を保護。これが天然の断熱材となり、気候変動からブドウを守っています。
醸造所には温度管理装置すら存在しません。人と同じようにワインにも四季を感じさせることで複雑味が生まれると信じているからです。自然な温度上昇を伴う発酵により生成されるグリセロール(グリセリン)*1が、特有の甘みとベルベットの質感をもたらします。そのプロセスも独特で、発酵期間は10〜13日と短期的ですが、開始直後に4〜5時間連続でポンピングオーバー(液循環)を行い、空気に触れさせることで発酵を促します。さらに、プレス時には深海に匹敵する350気圧という超高圧をかけ、熟成中の自然な保護剤となる「酸」を徹底的に抽出します。
熟成中は、年4回すべてのワインを樽から抜き、1時間半かけてお湯で樽を徹底洗浄することで、雑味のない純粋な味わいを守り抜いています。
*1 アルコール発酵中に、酵母が糖を分解する過程で生成される副産物。 グリセロールはワインにほのかに甘味を与えて、柔らかでなめらか、コクのある口当たりになると言われている。
「イル・マッロネート」が造る主なワイン
「イル・マッロネート」オーナーのご子息 ヤコポ・モーリ氏
現在は息子のヤコポ氏も加わり、父の情熱を継承。そのヤコポ氏により2019年より『ロッソ・ディ・モンタルチーノ・セレツィオーネ・ヤコポ』というワインが生み出されました。区画ごとに醸造・熟成をしたすべての樽の中から、毎年3〜5つの特別な樽をヤコポ氏自身で選びブレンドしたワインです。
「ブルネッロに使うような良いブドウも含まれているため、若いうちから楽しめると同時に、ブルネッロに感じられるような複雑さも感じられる。新しいタイプのロッソ・ディ・モンタルチーノになっている。」と、大きな期待を感じさせました。
こうした新たな試みに加え、「イル・マッロネート」では伝統から生まれる多彩なキュヴェが揃い、それぞれが異なる角度から"モンタルチーノのサンジョヴェーゼ"を表現しています。
『ロッソ・ディ・モンタルチーノ・イニャッチョ』は、ブルネッロと同じ工程で仕立てられる1本。ただし熟成期間はブルネッロよりも短く、大樽で約20~22カ月熟成、瓶内熟成6カ月を経ています。そのため、"小さなブルネッロ"とも称され、若いうちから豊かなアロマと、「イル・マッロネート」特有の滑らかな質感を楽しむことができます。
また、『ブルネッロ・ディ・モンタルチーノ』は、1975年と1977年に植樹された古樹を含む複数区画のブドウをブレンドした、彼らの歴史を象徴するスタンダードキュヴェです。大樽での約42~43ヶ月の長期熟成と、6カ月の瓶内熟成を経てリリース。エレガントでありながらしっかりとした構造をもつクラシックな仕上がりです。
そしてトップキュヴェに位置づけられるのが、単一畑から生まれる『ブルネッロ・ディ・モンタルチーノ セレツィオーネ マドンナ・デッレ・グラツィエ』。1975年植樹の最も古い畑の中でも、特に粒の小さいブドウのみを厳選することで、水分が少なく凝縮した果実のエッセンスを余すことなく表現されています。大樽で約47カ月間熟成後、6カ月間瓶内熟成を経てリリースされます。

テイスティングイベントで供された「イル・マッロネート」が手掛けるワイン。左から、『ロッソ・ディ・モンタルチーノ・セレツィオーネ・ヤコポ 2022年』、『ブルネッロ・ディ・モンタルチーノ 2021年』、『ブルネッロ・ディ・モンタルチーノ セレツィオーネ マドンナ・デッレ・グラツィエ 2021年』
それぞれの生産者が、モンタルチーノの多様なテロワールを純粋に表現したワインは、モンタルチーノの丘から見わたせる360°の景色が映ったかのように、自然な美しさと個性が溢れています。かつての「濃厚でパワフル」なイメージから進化するブルネッロ・ディ・モンタルチーノ、今回来日した3生産者の魅力をぜひ体感してみてください。
カステッロ・トリチェルキ:https://www.enoteca.co.jp/producer/detail/5380
レ・ラニャイエ:https://www.enoteca.co.jp/producer/detail/703
イル・マッロネート:https://www.enoteca.co.jp/producer/detail/1933