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サン・トーバンの可能性を拓く、「ドメーヌ・ルー・ペール・エ・フィス」の挑戦
ブルゴーニュ南部、コート・ド・ボーヌの一角に位置する小さな村、サン・トーバン。シャサーニュ・モンラッシェやピュリニー・モンラッシェといった白ワインの聖地に隣接していながらも、まだそれほど広くは知られていないかもしれません。
名高い産地の陰に隠れがちなサン・トーバンは、これまで長らく「知る人ぞ知る」存在にとどまってきました。しかし今、ブルゴーニュの白ワイン銘醸地と並び、愛好家が注目すべき存在として、脚光を浴び始めているのがこの村なのです。
■知られざるサン・トーバンの魅力
↑丘の中腹に広がるサン・トーバンの畑
サン・トーバンは標高約300〜350mに畑が広がり、グラン・クリュこそ存在しないものの、多くのプルミエ・クリュを擁しています。これまであまり注目されてこなかった背景には、皮肉にもその"立地の良さ"がありました。ブルゴーニュの白ワインを象徴する村々に囲まれた谷あいに位置しているため、その名声に埋もれてしまっていたのです。
興味深いのは、1970年代末までは赤ワインが主流だったという歴史です。しかしその後、冷涼な気候と地形を活かした白ワインの品質が見直され、現在では栽培面積の8割を白ブドウ品種が占めるまでに変化。まさに劇的な転換を遂げたと言えるでしょう。
実際、東や南東向きの畑は日照に恵まれており、さらに渓谷を吹き抜ける風によって昼夜の寒暖差が生まれるため、エレガントで引き締まった酸を持つ白ワインが生まれます。
そのスタイルは、ピュリニー・モンラッシェに通じるキリッとした酸やミネラル感を備えつつ、シャサーニュ・モンラッシェのようなふくよかさも感じさせる、バランスの取れたもの。熟成によってさらに深みが増すポテンシャルも秘めています。
■"ゼロ"からサン・トーバン最大の生産者へ
↑来日した5代目のオーナーファミリーのセバスティアン・ルー氏
そんなサン・トーバンの魅力を体現する生産者が「ドメーヌ・ルー・ペール・エ・フィス」です。来日した5代目のオーナーファミリーであるセバスティアン・ルー氏は「ゼロからドメーヌを始めたということは私の誇りでもある」と、5世代にわたり家族経営を続けてきたドメーヌの歴史を振り返りしました。
その歴史は1885年、サン・トーバンの小さな区画から始まりました。当時、所有する畑はわずか1ha未満。ドメーヌの出発点はごく控えめなものだったそうです。
転機が訪れたのは3代目にあたるセバスティアン氏の祖父の代。ブドウ畑の面積を一気に拡大し、自社畑は25haにまで成長します。その意志を継いだ父の代になると、コート・ド・ボーヌだけでなくコート・ド・ニュイにも進出。現在ではサン・トーバンを中心に、ブルゴーニュ全体で約70haもの畑を所有しており、そのうち20haがサン・トーバン村内に位置しています。この地では、実に23銘柄ものワインを手掛けており、区画ごとの個性を丁寧に表現しています。
さらに、ブドウや果汁を買い付けて造るネゴシアン部門も含めると100銘柄以上。生産規模は「サン・トーバン最大」と称されます。名実ともにこの地を代表するドメーヌへと成長したのです。
■区画ごとの個性を引き出す、ピュアな味わいへのこだわり

「ブドウそのもののピュアな味わいを表現することを大切にしています」。セバスティアン氏の言葉は、栽培・醸造すべてに通底しています。
まず徹底しているのは、区画ごとの栽培・醸造です。「ブルゴーニュでは"区画ごとの個性を尊重する"のは基本のように思われがちですが、複数の区画をブレンドして醸造する生産者も意外といます。私たちは、基本的にその区画ごとに収穫し、その個性を損なわないように仕込んでいます。一つの区画が持つブドウの個性を、なるべくそのまま感じてほしいからです」。
その背景には、サン・トーバンという土地ならではの地形的な多様性があると言います。例えば、隣接するシャサーニュ・モンラッシェやピュリニー・モンラッシェの多くの畑は東や南東向きの比較的なだらかな斜面に広がっているのに対し、サン・トーバンの畑は入り組んだ丘に位置しており、南向き・東向き・北向きと、畑の向きが実に多様です。標高も高低差が大きく、300mを超える区画も珍しくありません。
さらに、地中には石灰岩や粘土石灰質など複数の土壌が入り混じっており、たとえ同じシャルドネでも、区画ごとに香りや質感が異なる個性を見せるのです。この複雑性こそが、サン・トーバンの魅力の一つと言えるでしょう。
収穫のタイミングもまた、果実の魅力を最大限に引き出す重要なポイントです。標高が高く酸が出やすいサン・トーバンでは、酸味が強くなりすぎないように熟度を見極めて収穫時期を調整し、その年・その区画にとっての最適解を探っているのだと言います。
そうして収穫されたブドウは、醸造においても「果実の個性を生かす」ことを第一に考えています。基本的に野生酵母での自然発酵を行い、人の手による過度な介入は控えめにしているそうです。
また、熟成に使う樽は新樽比率が控えめで、白ワイン(シャルドネ、アリゴテ)は最大でも25%、赤ワイン(ピノ・ノワール)でも30%を上限としています。区画やキュヴェによって使い分けながら、樽香が果実味を覆い隠さないよう配慮しています。
このような丁寧な栽培と細やかな醸造のプロセスを経て生まれるワインは、各区画の個性や果実本来のピュアな味わいが魅力です。区画ごとに醸造を分けることで、その土地ごとのテロワールやその年ごとのヴィンテージの特性を鮮明に表現しています。
↑ドメーヌ・ルー・ペール・エ・フィスのワイン
有名なピュリニー・モンラッシェ、シャサーニュ・モンラッシェに比べると、サン・トーバンの名前を聞く機会はまだ多くはないかもしれません。けれどこの村には、複雑な地形と多様な土壌が織りなす、驚くほど豊かな個性がひしめいています。
そして「ドメーヌ・ルー・ペール・エ・フィス」は、その一つひとつに丁寧に向き合い、ブドウ本来の力を引き出すことで、サン・トーバンという土地の可能性を体現しています。一つの村で、これほど多彩な表情を持つワインが味わえる、そんな魅力を味わってみてはいかがでしょうか。
■ドメーヌ・ルー・ペール・エ・フィス
https://www.enoteca.co.jp/producer/detail/1424