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2025. 04. 23
生産者来日

カルト的な人気を誇るブティックワイナリー「コスタ・ブラウン」のエレガントなワインメイキングの秘密とは

 カリフォルニアのソノマ・コーストにあるワイナリー「コスタ・ブラウン」から、ワインメーカーのジュリアン・ハウセピアン氏が来日。ブルゴーニュラヴァーをも魅了する洗練された単一畑キュヴェ「ギャップス・クラウン・ヴィンヤード・ソノマ・コースト・ピノ・ノワール」をはじめ、各産地のテロワールを表現した個性豊かなキュヴェを味わうテイスティングイベントを開催しました。

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↑カルト的な人気を誇るコスタ・ブラウンより来日したワインメーカーのジュリアン・ハウセピアン氏。

 1997年にソノマ・コーストにあるレストランの同僚だったダン・コスタ氏とマイケル・ブラウン氏によって創業されたワイナリーが「コスタ・ブラウン」です。創業当初から、ピノ・ノワールとシャルドネが気候、地域、畑ごとの特徴を最も繊細に表現してくれるブドウ品種だと考え、この二つの品種にフォーカスしたワイン造りを続けています。

 現在はソノマ・コーストやサンタ・ルシア・ハイランズの他に、アンダーソン・ヴァレーやサンタ・リタ・ヒルズ、オレゴン州でもワイン造りを行っております。また、近年フランスのブルゴーニュにも進出し、コスタ・ブラウンの精神を受け継いだワイン造りを行っています。

 ワイナリーを象徴する単一畑のワイン、「ギャップス・クラウン・ヴィンヤード・ソノマ・コースト・ピノ・ノワール」を掲げながら、「カリフォルニアのピノ・ノワールのキングの畑がギャップス・クラウン・ヴィンヤードだと思っています。ワインから美しいカリフォルニアの風景を感じてほしい」と語るジュリアン氏にコスタ・ブラウンの歴史とテロワール、産地を尊重するワインメイキングを伺いました。

■紆余曲折を経てスタートした"夢のワイナリー"

 ジュリアン氏はコスタ・ブラウンを「若者二人が夢をかなえたワイナリー」と語ります。

 ソノマ・コーストのレストラン「ジョン・アッシュ&カンパニー」で働きながら、ワインを造るという共通の夢を持っていた創業者のダン・コスタ氏とマイケル・ブラウン氏。ワインビジネスやワインメイキングについて経験も知識も資金もない若い二人でしたが、夢をかなえるために15ドルずつレストランでのチップを資金として貯め続け、1年間で約1,400 ドルの資金を蓄えました。それをもとに、0.5トンのピノ・ノワールのブドウと中古の樽を一つ購入し、ダン・コスタ氏の自宅のガレージでたった1樽のワインを造ったことからコスタ・ブラウンの物語が始まりました。

 2001年には投資家を募って、資金提供を受けますが、まだまだ無名で経験もない二人は、ワイナリーの経営が軌道に乗るまで510年ほどはレストランでの勤務を続け、マイケル・ブラウン氏は他のワイナリーでの修行も積むなど苦労を重ねました。

 そんな生活を続けるうちに二人に好機が訪れます。2003年に『サイドウェイ』というワインをテーマにしたロードムービーがアメリカで公開され(日本公開2004年)、それまではアメリカであまりメジャーではなかったピノ・ノワールという品種が注目を集めました。創業当初からピノ・ノワールを造っていたコスタ・ブラウンは、『サイドウェイ』効果によってワイナリーの経営が軌道に乗るようになります。

 そして2011年、コスタ・ブラウンの名をアメリカ中に広める出来事が起きます。有名なアメリカのワイン評価誌『ワイン・スペクテーター』にて、「ソノマ・コースト・ピノ・ノワール」2009年がワイン・オブ・ザ・イヤー(年間最優秀ワイン)に選ばれたのです。このことが転機となって、コスタ・ブラウンは一躍注目を集めるようになりました。

「ワイン・オブ・ザ・イヤーを獲得した当初は、外から見ればワイナリーとはわからないような倉庫でワインメイキングを行っていました。ですが、二人の努力と様々な幸運から、2012年にはソノマ・コーストのセバストポルという町に自社のワイナリーを持つことができたのです。」とジュリアン氏は語ります。さらに同年にはキーファー・ランチ・ヴィンヤードを購入し、ワイナリーとしての基盤を獲得しました。

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↑2012年に建設したソノマ・コーストのセバストポルにあるワイナリー。©WILDLY SIMPLE PRODUCTIONS

■ピノ・ノワールとシャルドネで表現されるカリフォルニアのテロワール

 カリフォルニアの中でも、ピノ・ノワールとシャルドネの銘醸地といわれているソノマ・コーストとロシアン・リヴァー・ヴァレー。太平洋に面した地中海性気候ですが、アラスカから流れてくる冷たいカリフォルニア海流と十分な日照があることから、気温と海流の温度差で海に霧が発生します。そうして発生した霧は、渓谷や川を伝ってブドウ畑まで上がってきます。

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↑寒流と豊富な日照による温度差から発生する霧。渓谷や川を通って、ソノマ・コーストとロシアン・リヴァー・ヴァレーの丘陵地帯のブドウ畑を包みます。©WILDLY SIMPLE PRODUCTIONS

 ジュリアンさんはこの産地の面白さを以下のように語ります。

「朝は4℃ほどの気温も、日中には29℃ほどに上がる日もあり、この温度差によってブドウの果皮には様々なアロマが生まれ、テクスチャー、酸味、旨味のバランスに優れたワインを生み出すことができます。丘の麓では、ブドウも霧の中に入ってしまいますが、頂上付近では霧が上がってこない日や、十分な日照から霧が晴れるのが早く、畑や区画ごとに温度差があります。昼夜の寒暖差の大きさ、畑の向きや標高、霧による影響などの複雑な条件が絡み合っていることから、畑や区画ごとに特徴をもった繊細なピノ・ノワールとシャルドネが生まれることがこの産地の大きな特徴であり面白いところです。」

■カルト的な人気を裏付ける、こだわりのワインメイキング

 ブドウの収穫や調達には手抜きをしないというポリシーを貫いています。ブドウはすべて手で収穫を行います。気温が低く、ブドウの温度が上がらない夜のうちに収穫を行い、ワイナリーには早朝までにブドウが届けられることから、造られるワインにはピュアな果実味が表れています。

 シャルドネは、破砕後に圧搾し、オークの木樽で野生酵母を使って一次発酵、その後、乳酸発酵を行います。木樽での一次発酵と、マロラクティック発酵によって、味わいはリッチで、とても柔らかいボディ、ソフトなテクスチャーを持ち、長い余韻を感じられるワインになります。

 ピノ・ノワールは、一部を全房発酵、大部分は除梗をして発酵を行います。「大部分を除梗するのは、シャルドネと同じくブドウ本来のピュアな果実味を存分に生かしたいから」とジュリアンさんは説明します。

 発酵では、ステンレスタンク、コンクリートタンク、フレンチオークと3つの発酵槽を使い分けています。ステンレスタンクからはフレッシュで生き生きとした果実味、コンクリートタンクからは柔らかな果実味、フレンチオークからはテクスチャーと余韻が生まれます。3つを使い分けることで、ワインが仕上がった時に複雑味が生まれると考えています。

■新ヴィンテージ、ワインメーカーの評価

 今回、2021年と2022年のワインがお披露目となりました。気候の全く異なるこの2つのヴィンテージは味わいのスタイルはもちろん、飲み頃も異なるとのことで、ジュリアンさんにヴィンテージの評価と楽しみ方のおすすめを語っていただきました。

2021年は、比較的涼しい気候の年で、特にロシアン・リヴァー・ヴァレーでは非常に良い年になったと思います。気温が穏やかだったため、ブドウはじっくりと成熟し、しっかりとした酸味とフレッシュなニュアンスを保持しました。これにより、ワインはエレガントでバランスが取れたスタイルに仕上がり、特にピノ・ノワールには繊細な印象を感じさせます。2021年のピノ・ノワールは、酸味と果実味のバランスが優れており、熟成ポテンシャルが高いとされるタイプです。このヴィンテージは、長期的な熟成を見込むワインファンには特にお勧めです。」

「2022年は、カリフォルニア全体で非常に暑い年となり、熱波の発生には気をもみました。ブドウの成長は早く進み、果実味が豊かでリッチなワインが生まれました。コスタ・ブラウンとしては熱波による影響はなかったのが幸運で、暑い年ならではのボリューム感のある果実味と、フルーティーで飲みやすい仕上がりとなっています。特にピノ・ノワールはリッチな味わいと共に、非常に飲みやすいタイプに仕上がっています。暑さの影響にも関わらず、非常に満足のいく品質となりました。このヴィンテージは、すぐに楽しむことができ、フレッシュで芳醇な味わいがお楽しみいただけます。」

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左から、ワン・シックスティーン・ロシアン・リヴァー・ヴァレー・シャルドネ2022年、ロシアン・リヴァー・ヴァレー・ピノ・ノワール2022年、ソノマ・コースト・ピノ・ノワール2022年、ギャップス・クラウン・ヴィンヤード・ソノマ・コースト・ピノ・ノワール2021

 現在でもカルト的な人気を誇り、生産量に対して大きな需要を抱えているコスタ・ブラウン。生産されるワインの9割がワイナリーのメーリングリストに登録された会員への限定販売、残りはアメリカのワインショップやレストランで販売されています。

 大々的な輸出はしていないものの、ごく少数を日本に販売している理由をジュリアンさんは以下のように語ります。

「カリフォルニアを代表する品種はナパ・ヴァレーのカベルネ・ソーヴィニヨンかもしれません。ですが、私たちはピノ・ノワールこそがソノマ・コーストのテロワールを表現できる品種だと信じていて、ギャップス・クラウン・ヴィンヤードこそがピノ・ノワールのキングだと思っています。日本のワインラヴァーの優れた味わいへの感覚とポテンシャルは、コスタ・ブラウンのそうした職人気質なこだわりを理解してもらえると感じていて、ギャップス・クラウン・ヴィンヤードをはじめとするキュヴェで、本質や真髄を理解いただけると考えています。」