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「アルヌー・ラショー」からシャルル・ラショー氏が来日! 独自のこだわり農法から造るエレガントなワインを披露
世界的に人気が高く、ヴォーヌ・ロマネのスターと称される「アルヌー・ラショー」より、オーナーファミリーのシャルル・ラショー氏が奥様のルイーズ氏と来日。ファインワインラヴァーを虜にする「アルヌー・ラショー」と、自らネゴシアンスタイルで手がける「シャルル・ラショー」のテイスティングイベントを開催しました。

↑ワイン造りにおいて、日本から様々なインスピレーションを得ているオーナーファミリーのシャルル・ラショー氏。
1858年に創立し、ブドウ栽培家として150年以上もヴォーヌ・ロマネに居を構える「アルヌー・ラショー」。ロマネ・サン・ヴィヴァンの他、クロ・ド・ヴージョ、エシェゾー、ラトリシエール・シャンベルタンの4つのグラン・クリュを含めた、約14haの畑を所有しています。2015年からは6代目のシャルル・ラショー氏が醸造・栽培の指揮をとり、ドメーヌに様々な改革を起こしています。また2018年からは、より自由度が高い条件のもと、理想とするワインを造るため、ミクロネゴシアンの「シャルル・ラショー」も手がけています。「私たちが手がける2つのブランドを、同じインポーターが取り扱うことは世界的にも珍しいんですよ」、そう冒頭で説明いただきながら、それぞれの取り組みについてシャルル氏に詳しくお話いただきました。
■通常のネゴシアンではない、「シャルル・ラショー」
前述のように、シャルル・ラショーは"ドメーヌ"ではなく、"ネゴシアン"のスタイルを取っています。そのすべてが始まったのが、当初はアルヌー・ラショーの畑だったアリゴテの畑の存在でした。シャルル氏はアリゴテが人生で初めて造った白ワインであり、この区画があったことから、シャルル・ラショーを立ち上げようと考えたそうです。
「ネゴシアンと聞くと、ドメーヌより品質が落ちると思われるかもしれません。ですが、私はドメーヌでできないことを、ネゴシアンで行いたいと考えました。シャルル・ラショーは言わば、"ラボ"。そこで研究・実践した結果をドメーヌに還元しています」。
そうシャルル氏が話すとおり、シャルル・ラショーでは、通常のネゴシアンとは異なる様々な取り組みが行われています。ネゴシアンと言えばブドウやそのジュース、もしくはワインを樽で購入しますが、シャルル・ラショーでは、まず、すべてオーガニック認証を得た畑のブドウを使用することを決めており、生産量の8割にあたるブドウに関しては、各畑のオーナーと合意の上で、栽培・収穫もすべて自社のチームで行っています。自社畑ではないものの、3haの畑をチームでケアしており、すべてオーガニック認証を取得しています。
「私の考えは、"ワインメイキング=畑仕事"だと思っています。ドメーヌでブドウを発酵・醸造することがワインメイキングではありません。畑仕事こそが、良いワインを造る"ワインメイキング"なのです。」
このイベントのために空輸で運ばれたのは、日本初お披露目となるシャルル・ラショーの「ブルゴーニュ・アリゴテ・レ・シャン・ダルジャン」2023年です。シャルル氏によれば、非常に重要なヴィンテージで、この年、熟成に樽を使用することをやめ、イタリア製のセラミックタンクに全面的に切り替えました。
「セラミックタンクを使用する理由ですが、素材は土と砂や粘土などで、それらを混ぜて作られており、ケミカルなものが一切入っていないこと。加えて、木樽のニュアンスが付かないことから、ピュアなブドウ本来のテロワールや味わいが出るのではと考えました。」
この発想は驚くことに、日本に影響を受けたのだとか。
「数年前、日本を訪れた際に、和食の文化に触れました。素材の質や季節を大切にし、素材本来の良さを邪魔しない、手を入れない調理法を知り、ブドウも同じではないかと考えました。樽を使ったり、醸造でテクニックを使うことはブドウ本来の味わいを阻害するのではないか考え、セラミックタンクを使うようになりました。」
■シャルル氏が実践する改革と独自の農法
2012年からドメーヌで働きだしたシャルル氏。その翌年から醸造に加わりました。5代目となる父のパスカル・ラショー氏が管理していた時は100%除梗を行っていましたが、シャルル氏が醸造に携わったタイミングで30~60%の比率で全房発酵に切り替えました。さらに、ギヨ・サンプル(長梢と短梢1本ずつからなり、左右片側に長梢を誘引する)の仕立てを、2つ伸びるギヨ・プーサール(写真下)に変えることも行いました。

↑アルヌー・ラショーのInstagram(https://www.instagram.com/arnoux_lachaux/)より。ブドウ樹はギヨ・プーサールで仕立てられており、夏の剪定は行わない。
その後、2016年に完全にオーガニックに切り替え、2017年からビオディナミを開始。2018年にはすべてのワインで全房発酵に移行しました。シャルル氏が実践する取り組みの特徴として、剪定方法もあります。夏の剪定では一般的に、ブドウ樹の先端を切りますが(枝が垂れるとカビなどの影響もあることから、ブドウの樹の先を切って剪定を行う)、それをしないようにしたそうです。
「剪定しない理由は、ブドウの樹を傷つける=ブドウ樹のエネルギーを遮断することになるから。仕立ての方法を樹液が流れやすいギヨ・プーサールに変えたのもこの理由です。現在は、さらに古い仕立て方であるゴブレ仕立て(南フランスの伝統的な栽培方法で、株仕立てのこと)を全畑に導入しています。新芽の発芽数が平均9つほどで、これまでより少なくなったのですが、より自然な仕立てだと感じています。ブドウの先端は伸びていくものです。それを人間がコントロールするために切るのは違うのでは、と考えました。切らないことがブドウの免疫やエネルギーの保全につながっていると考えており、病害にもかかりにくくなっているように感じています。」
ブルゴーニュでは、夏前のブドウの成長期は、8~9人で剪定に1.5ヵ月かけるのが普通ですが、アルヌー・ラショーでは、26人を雇い、3ヵ月間かけてブドウ樹のケアを行っています。
「同じ区画でもそれぞれの樹の成長スピードがあって、個性があります。トレサージュする(枝をアーチ形に編むこと)樹もあれば、しない樹もあります。それを考えるのも私たちの仕事です。さらに、2020年からは土を耕すことをやめました。雑草を刈ることもないので、よく伸びた雑草が1mを超え、ブドウよりも高くなることもあるんですよ。」
その結果、ブドウのツルが190cm近く非常に高いところまで伸びるため、樹々の性格を見極めながら、杭を3つ重ねたペソーという仕立てを始めています。アルヌー・ラショーの畑は雑草が生い茂っています。花が咲き、枯れ、土に戻るーそうした入れ替わりが重要と考えているシャルル氏。雑草のない隣人の畑と比べると、夏の日差しのもとでは、約15℃も土の温度が違うのだそうです。こうした環境下では自然と収量が落ちるため、それがワインのナチュラルな凝縮感に繋がっています。

↑アルヌー・ラショーのInstagram(https://www.instagram.com/arnoux_lachaux/)より。仕立てには杭を3つ組み合わせたペソーを採用。雑草が伸び放題なのも見てとれる。

↑アルヌー・ラショーのInstagram(https://www.instagram.com/arnoux_lachaux/)より。アルヌー・ラショーの畑で放牧されている羊たち。
「ドメーヌは農家であり、ブドウだけを育てる人とは思っていません。祖父母の世代は羊などの動物を放し飼いにしており、私は農家として、ブドウだけではなく、祖父母が行っていたような昔の農家の生活も尊重したいと考えています。」
そのためアルヌー・ラショーでは、約50頭の羊を収穫後の秋から春先まで畑に放牧。羊たちは雑草を食べ、ナチュラルな堆肥を生み出してくれています。
未来のために昔ながらのワイン造りを目指し、自然と対話しながらあらゆる試行錯誤を繰り返すシャルル・ラショー氏。一代でこれだけの改革を行うことができた理由としてシャルル氏は、笑顔で以下のように語りました。
「生きていると、あらゆる変化が起こり得ます。大切なことは、日常の些細な変化を見逃さないことだと思います。ドメーヌで働きだしたとき、私は本当に経験のない素人だったので、先入観なく、周りが行っていないことであっても挑戦してみたい、と考えることができました。若く経験のなかった私の挑戦に対して、快く背中を押してくれた両親に感謝しています。」
また、現在の新しい取り組みは?という質問には、
「これまで多くの新しい取り組みを行ってきたので、結果が出るのはまだまだこれから。その結果や変化を見ながら、これからのワインに表現することができればと思います。」と、答えていただきました。
世界が求めてやまないシャルル・ラショー/アルヌー・ラショー。そのエレガントな味わいの背後には、シャルル氏の驚くべきワイン造りへの熱量と挑戦がありました。惜しみなく実践する取り組みは、すべてシャルル氏の以下の言葉に凝縮されています。
「私が造りたいのは自身のシグネチャーワインではありません。その土地を表現するワインを造りたいのです。」
