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エノテカ株式会社(本社:東京都港区、社長:堀 慎二)が、正規代理店として取り扱うフランスの老舗シャンパーニュ・メゾン「ルイ・ロデレール」より、7代目当主のフレデリック・ルゾー氏と副社長兼醸造責任者のジャン・バティスト・レカイヨン氏が来日し、今年50周年を迎えた『クリスタル・ロゼ』について、その歴史と哲学、独自の製法について仔細にお話しいただきました。
1974年に誕生した『クリスタル・ロゼ』を生み出したのは、フレデリック・ルゾー氏の父で、醸造家で農学者であったジャン・クロード・ルゾー氏。父から引き継いだことは、「子どものように夢を持ち続けること、そして好奇心旺盛であること」だったと話すルゾー氏。どのような経緯で『クリスタル・ロゼ』が誕生したのかをお話しいただきました。
「ルイ・ロデレールでは、1830年ごろから『ヴィンテージ・ロゼ』を造っていました。ヴァレ・ド・ラ・マルヌ地区のアイ村には、"シャンパーニュのミュジニー"とも呼ばれるすばらしい区画、ボノット(Bonottes)があり、この畑の存在が出発点。ボノットのテロワールを活かし、『クリスタル』とは別の表現をするシャンパーニュを造ろうとしたのが始まりです。父はメゾンの礎を築いたカミーユ・オルリー・ロデレール氏(現当主フレデリック・ルゾー氏の曾祖母にあたる人物)から畑仕事の大切さを教えられており、テロワールの大切さを理解していました。そこで、テロワールを最大限に表現するロゼ・シャンパーニュを造ることを試みたのです。」
ロゼ・シャンパーニュはその当時、シリアスなワインとは考えられていなかったそう。ロゼのフェノリック(ブドウの果皮や種、梗などに含まれる化合物。タンニンはフェノールの一種)は、当時、シャンパーニュという土地では、うまく熟さないと考えられていたそうです。ただ、畑によってはすばらしいフェノリックが生まれることがわかり、それが石灰岩土壌で日照に恵まれたアイ村のボノットでした。この区画ではブドウがよく成熟し、「塩気がある」とレカイヨン氏が称するタンニンがすばらしい成熟を見せます。
「このタンニンをどう扱うかが重要です。そこで私たちは、ピノ・ノワールを二酸化炭素で保護した還元的な状態にして(通常、赤ワインの醸造工程で行われる)パンチングダウンもポンピングオーバーもせず、果皮はそのままに低温(4℃)で浸漬。5~10日間と長めの日数をかけて香水のような香りと果汁を抽出します。この製法が、ロゼ・シャンパーニュ造りにおいて他に類を見ない製法である、"インフュージョン"(一般的には、お茶やハーブティーを煎じることを指す)です。やさしくソフトに抽出することで、極上のアロマ成分と成熟したタンニンの良い部分だけを取り出すのです。」
そして、『クリスタル・ロゼ』を『クリスタル・ロゼ』たらしめている、もうひとつの重要な要素が、"コ・ファーメンテーション"(混醸)です。『クリスタル・ロゼ』には、アイ村のボノットのピノ・ノワールに加え、コート・デ・ブラン地区のシャルドネ(ル・メニル・シュール・オジェのル・モンマルタン(Le Mont Martin)とアヴィーズのピエール・ヴォードン(Pierre Vaudon))が最適なシャルドネとして使用されています。多くのロゼ・シャンパーニュは、シャンパーニュ製造工程の最後に少量の赤ワインを加えるブレンディング法が主流となっていますが、ルイ・ロデレールでは、ピノ・ノワールとシャルドネを一緒に発酵させることが非常に重要と考えています。
「赤と白を最後に混ぜるだけではこのような味わいには仕上がりません。ピノ・ノワールとシャルドネを"融合"させることが重要で、それがコ・ファーメンテーションなのです。そうすることにより、香水のような華やかな花の香りと完璧なテクスチャーが生まれます。」
シャルドネに対し、アイ村のピノ・ノワールは比較的早く収穫され、それぞれ収穫時期が異なります。コ・ファーメンテーションは当然、発酵を一緒に始めることからそれだけに難しく、収穫のタイミングでクリスタル・ロゼの品質が決まると言っても過言ではないそう。
「クリスタル・ロゼのブレンド比率は、ピノ・ノワール55%、シャルドネ45%。シャルドネを最初にタンクに入れて、その下をくぐらせるように、ピノ・ノワールを入れます。そのようにシャルドネでピノ・ノワールの酸化を守りながらアルコール発酵させるのです。」
1999年からルイ・ロデレールの醸造責任者を務めるレカイヨン氏。約25年もの年月をかけて考案したインフュージョンという製法ですが、実は日本の茶道にインスピレーションを受けたのだとか。重要なのは、"酸化との闘い"なのだそうです。
「かつてお茶の抽出を学んだときに、抽出するときのお湯の温度が重要だと思っていました。しかし、実はそうではなく、それに至るまでの準備が最も重要だとわかったのです。お茶は手もみをした後、茶葉の酸化を防ぐことが大切です。それは私たちのインフュージョンでも同じ。収穫をしたらブドウをマイナス温度まで冷やし、酸化を抑えます。除梗もマイナス温度下で行います。そうした下準備がとても重要です。お茶もワインもフェノリックの抽出という観点では同じで、カテキンもフェノリックの一種ですからね。」
気候変動が拡大している今、シャンパーニュにおけるフェノリックの扱いが非常に重要になっているそうです。
「現在、ロゼ・シャンパーニュ造りにおけるフェノリックの扱いについて、重要性が増しています。酸が低い年でもフェノリックがあれば、フェノリックが酸を保護する働きを行うことから、非常に良い熟成をしたり、より長い熟成をすることがわかっています。『クリスタル・ロゼ』にはそうしたフェノリックが含まれていることから、例えば30年熟成した『クリスタル』と30年熟成した『クリスタル・ロゼ』を比べると、『クリスタル・ロゼ』の方が10年は若いです。」
レカイヨン氏は『クリスタル』2008年ヴィンテージについて、「"ベスト・クリスタル・ロゼ"だと思っています」とのこと。「クリスタル・ロゼは2007年からすべてビオディナミとなっています。2008年はまだまだ若々しく、深淵さを備えており、塩味を感じるすばらしいシャンパーニュになっています。」
「ワインで人の心を動かしたい。心が動く、"エモーショナルなワイン"を造りたいのです」と、ルゾー氏。「そして、それは日々のディテールの積み重ねから造られるのです。」
オーガニックやビオディナミ、パーマカルチャーを実践するルイ・ロデレール。多くのメゾンはブドウ樹について、量産型クローンを使用していますが、ルイ・ロデレールでは多様なDNAを残そうと、マサル・セレクション(畑のブドウ樹から優れた樹を何種類か選び、台木に接ぎ木して育てていく方法)によってブドウ樹を選別し、苗床で育て、未来へと繋いでいます。こうした実践はシャンパーニュでも非常に稀なケースだそうです。
「大切なのは、"シンギュラリティ"(singularity)。ルイ・ロデレールならではの特異性を守っていくこと。ワインの品質の80%はテロワールや畑に由来します。私たちは畑やブドウの樹というルイ・ロデレールらしさの根源を守っていくことを一番大切にしています。」
思えば、ルイ・ロデレールのシャンパーニュの化粧箱に描かれるのは、石やブドウの根、葉などすべて畑にあるものばかり。ルイ・ロデレールが何を最も大切にしているか、それを突き詰めればこのような表現になると話すルゾー氏。『クリスタル・ロゼ』の圧倒的なすばらしさの背後に見えてきたのは、あくまでも"畑に根差す"というルイ・ロデレールの確固たる哲学でした。